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第一章:探究者アオと「迷子の音」

シマとよばれるその街は、世界中の言葉が集まる言霊の漂流地だった。

ここで生きる人々は皆、言葉に宿る魂、つまり「言霊」の存在を知っていた。

​そして、アオは、この街でただ一人の迷子言葉の保護者だ。

彼が保護をする言葉は、ただ道に迷った言葉ではない。

文法から外れ、意味の居場所を失った、不安定な響きを持つ言葉たちだ。

人々は、その言葉が持つ根源的な力を恐れ敬い、畏敬の念を込めて「謎語(めいご)」と呼んだ。


ある夕暮れ、アオの元に骨董屋の店主から、複雑な謎語を渡された。

店主に話を聞いてみれば、大量に仕入れた古書と古書の間にその謎語は紛れ込んでいたのだという。

その音は、まるで二つの異なる旋律が無理やり結びつけられ、不協和音を奏でているかのようだった。

謎語は『コトノハ』という大きな常緑樹の葉の裏に書かれていることが多い。

​今回持ち込まれたコトノハには、「謎語」と筆のようなもので力強く書かれていた。

「めいご?… 迷子の言葉のそのものの事じゃないのか?」

アオは呟いた。

だが、言霊はこう訴えかけてくる。

「たすけて… まいご… 。ぼくは…どこへいくべき…?」

アオは理解した。

この謎語は、本来の読み方の意味を持つ一方で、誰かに「まいご」という感情的な読みと意味を無理やり与えられたことで、言霊が分裂し、行き場を失ってしまったのだ。

「君は、誰かに『まいご』と呼ばれたんだね?その瞬間に、『なぞ』と『まよい』の二つの魂を持ってしまったのか。可哀想に…」

アオにとって、この言霊は「めいご」ではなく、まさに「謎語(まいご)」だった。

 
 
 

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